スコットランドの独立を問う住民投票を現地で取材したジャーナリスト、大芝健太郎さんにレポートを寄せていただきました。独自のアンケートなど大変興味深いです。
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大芝健太郎 『スコットランド「独立」住民投票』 レポート 投票日の5日前、僕は霧に包まれた肌寒いエディンバラに降り立った。空港から市街地へ向かう路面電車の券売機の前で小銭がなくて困っていると、係の人が「大丈夫ですか?」と駆けつけて、両替をしてくれて、車内のスーツケースの置き場所もにこやかに教えてくれた。気候とは裏腹にスコットランド人はとても暖かいというのがスコットランド人の印象である。街では、両派(9割が賛成派)のアピールが至る所で目に飛び込んできた。窓に貼られたポスター、道行く人の胸のバッジ、道路や看板のステッカーが、投票日が近づいていることを感じさせる。
○投票日 2014年9月18日(木)
○設問 「Should Scotland be an independent country?(スコットランドは独立するべきですか?)」
○開票結果 賛成 1,617,989(44.7%) 反対 2,001,926(55.3%)投票率 84.5%32地域のうち賛成が上回ったのはダンディー(57%)、グラスゴウ(53%)、ノース・ラナークシャー(51%)、ウエスト・ダンバートンシャー(54%)の4地域。一方、反対派が多かった地域はオークニー(67%)、スコテッシュボーダース(67%)、ダンフリースアンドギャロウェイ(66%)など。
○投票理由賛成に投じた主な理由「ウエストミンスター(UK議会)への不満」74%。
スコットランドはどちらかというと左寄りの社会を目指しており、社会保障などを手厚くして、格差を減らし、核廃絶を目指しているのに対し、ウエストミンスターは緊縮財政、経済優先、核の平和利用を進めている。スコットランドの選挙で選ばれた議員も、UK議会では十分に力を発揮できない(ウエストミンスター議員650人のうちスコットランド選出の議員は59人のみ)という長年の不満が表出した形である。
反対に投じた主な理由「ポンドが使えるかどうか不確実」57%。
反対派による「ポンドを使わせない」という主張が多くのスコットランド人の心をUKに引き留めた形だ。
★スコットランド「独立」住民投票アンケート・期間2014年9月15日~9月23日サンプル数 104人
(エディンバラ64人 グラスゴウ40人)
・若者を中心に対面調査。10代から70代の男女
・協力:翻訳 金子誠人 アンケート補助 Elin Johansson
Q1. 今回の「独立」について住民投票に賛成か反対ですか?(独立に賛成か反対かではありません)賛成 87人(83.7%)□「独立」のように大切なことは住民投票で決めるべき。83人(賛成と答えた人のうち95%)
□ 政府の決定と主権者・国民の多数意思がねじれていると考えるから。28人(32%)
□ その他7人(8%)
・人びとの問題は人びとで決めるべき。
・全てのスコットランド人も投票できるようにするべき(国外に住んでいる人も含めて)…など
反対 17人(16.3%)□これはUK全体のことなのでUKのreferendum(国民投票/住民投票)で決めるべき。9人(反対と答えた人のうち53%)
□民衆は正しい選択をすることができないので議会に任せるべき。3人(18%)
□正しい情報がきちんと行き渡ってから実施すべき。8人(47%)
□その他 1人(6%)
考察:実に83.7%の人が、住民投票に賛成している。この数値は今まで調査をした、リトアニア、ブルガリア、スイスの中で最も受け入れられているReferendum(国民投票/住民投票)だと言える。「UKの住民投票にかけるべき」という反対理由や「正しい情報がきちんと行き渡ってから実施すべき」という理由も今回の住民投票には反対の立場だが、住民投票自体には反対していない。もっと状況を整えることが重要だという指摘だと考えられる。
Q2. 16歳以上が投票権を持つということについてどう思いますか?賛成 73人(70.2%)□将来にわたって影響が大きい若い世代も投票をさせるべき。54人(74%)
□十分に判断力を持っているので投票させるべき。38人(52%)
□その他9人(12%)
・結婚すること、軍隊に入ることなど仕事を選ぶことができるのだから投票権も持つべき。
・若い時から政治に興味を持つ人が増えるから。
・年齢は問題ではない。きちんと複合的で複雑な政治的な情報を与えることが大切。若者の意見を無視していい理由はない。
反対 31人 (29.8%)□投票するには若すぎる。28人(90%)
□その他3人(10%)
・親や、友達の影響が大きすぎる。
考察:今回、16歳17歳が初めて投票をする機会を得た。(通常選挙の投票権は18歳以上から)そのおかげだろうか、出会った16歳17歳の学生が皆、独立について考え、学校でも議論をしているという。更に日本の中学生にあたる10代前半の世代にも関心が広がっていて、学校の授業でも独立について頻繁に取り上げられているそうだ。投票年齢を引き下げるということは、それだけ関心を持つ人を増やし、世代間議論を深めるきっかけになると考えられる。
Q3. いつから「独立」というテーマに興味を持ち始めましたか?□2014年~ 投票日が近づいてきてから26人(25%)
□2013年~ 盛り上がってきてから26人(25%)
□2012年~ 住民投票をすることになってから20人(20%)
□2011年~ 前回のスコットランド選挙辺りから5人(5%)
□2000年~ スコットランド議会ができてから10人(10%)
□1990年~ 3人(3%)
□それ以前 11人(11%)
□現在も興味がない 2人(2%)
考察:住民投票をきっかけに今まであまり興味のなかった人も、70%を越える人が「独立」に興味を持ち始めたと答えている。若い人を中心に話を聞いているということを加味しなければならないが、それでもこの結果は興味深い。例えば、日本でも「原発」をテーマにした国民投票を行う場合、今は関心がない人でも決定権を与えられることによって、もしくはメディアなどで取り上げられたり、友達や家族などで話されるようになってくると、自然に関心を持ち始めるということが十分考えられる。
Q4.誰と「独立」に関しての話をしますか?□学校の友達68人(65%)
□地元の友達61人(59%)
□親58人(56%)
□親戚48人(46%)
□兄弟41人(39%)
□bar や公園などで知らない人など37人(36%)
□インターネット上24人(23%)
□子ども13人(13%)
考察:学校の友達や地元の友達、または親と話をする人が半数を超えている。また、知らない人とも36%の人が議論をしていたというは意外にも多かったが、実際にカフェや、道ばたで知らない人同士が議論をしているのを目撃した。インターネット上で話をするという人が23%と、あまり多くないことには少し驚いたが、ツイッターでは #indyref のハッシュタグでかなり活発に情報発信がされていたし、フェイスブックでも同様に多くのグループが作られ独立に関する情報が飛び交っていた。
エディンバラに住むリンゼイ・エイトケンさん(31)に話を聞いた。「私は1999年、スコットランド議会ができてから独立問題に興味を持ち始めて、先日の住民投票では賛成に投じました。とても大きなチャンスを逃してしまったので悲しいのですが、これが民主主義ですので受け入れるしかありません。」と振り返る。リンゼイさんと小さい時からの友達で一緒に暮らすシェアメイトのカレン・ジョンストンさん(31)は独立反対に投票した。「16歳以上の投票権にも賛成」の立場だ。そこで「16歳、17歳では71%が賛成に回っていますが、それでも彼らの投票権に賛成なのですか?」と聞くと「どっちに投票したかの問題ではありません。彼らの未来に大きく影響することだから、彼らは投票するべきだと思うし、それで良かったと思います。」と揺るぎない。彼女達は一緒に生活しているが賛成と反対で意見が違う。一緒に討論番組などを見て、その後にお互いの意見を言い合ったりしていたそうだ。時には感情的になることもあったが、それほどの重要な決断をしなければならなかったので、お互いに情熱的に議論を交わしたという。そして、それだけの話し合いをしても結局意見が違うままだが、二人とも楽しそうに今も仲良く暮らしている。意見の違う人と徹底的に議論をして、最終的にお互いの意見を尊重する。この民主主義の根本をスコットランドで見た気がする。
独立住民投票は反対派に軍配が上がったが、独立賛成派は負けてもなお、勢いが衰えるどころか増している。住民投票終了後、たった一週間で独立賛成派だった国民党、緑の党、社会党はいずれも党員数を倍増させており、この独立を求める世論の高まりを追い風に、来年のウエストミンスター選挙に臨む構えだ。まだまだスコットランドの独立運動からは目が離せない展開が続きそうだ。
スコットランドでも香港が民主的な選挙のために立ち上がって広場を占拠してデモンストレーションをしていた様子がよく報道されていた。そして日本でも10月17日から埼玉で「原発」県民投票を求める署名活動が始まる。日本は基本的に「民主主義」の国だが、市民が輝くような参政権を手に入れるためには直接請求や、住民投票などを通して市民が「民主主義」を磨いていかなければならないと思う。
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大芝健太郎(しばけん)Kentaro Oshiba
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